あれは、あたしが競馬に魅せられていた1990年の8月11日…、青森へ帰省する前に函館競馬場に寄り道するため、函館市内のプチホテルに一泊した時のお話です。
競馬は、収支が若干の赤字だったけど、五稜郭近くでフラ〜っと入ったラーメン屋さんが、あたしが一番大好きな味だったので、ご機嫌が戻った事をはっきり覚えています。あちこち歩き回って汗かいて疲れた体を、お風呂上がりのまま全裸でベッドに横になると、そのまま眠ってしまいました。
どの位眠ったでしょうか…、コンコン、とドアを叩く音がしました。あれ?もうチェックアウトの時間かしら?と思っていながら、体を起こせずにいると、ガチャガチャとドアを開けて、誰かが入ってきました。お掃除のオバちゃんでした。
あたしは、寝ぼけた体を起こせずにいて、真っ裸で、ふとんもかけずに横たわったままだったので、必至に股間を両手で隠し、「すみません、まだ、準備ができていないので、もう少し後にして下さい。」と言うと、そのままお掃除係りのオバちゃんは、何も言わずに部屋から出て行きました。
ようやく、体が起きて、つけっぱなしのテレビを見ると、どうやら、まだ朝じゃない雰囲気…。時計を見ると12時を少し過ぎた時刻。あれ?まだ夜中じゃん…。変な夢を見たもんだ、と思いながら、テレビを消して、ちゃんとベッドに入って眠り直しました。
翌朝、どうしても昨夜の事が気になって、フゥーっと頭の中に伝わってきた、オバちゃんの生活背景のイメージを、チェックアウトの時に、カウンターのお姉さんに聞いてみました。
「このホテルでお掃除の担当をされていた中年の女性で、まだ小さな男の子と女の子の二人のお子さんを残して亡くなった方いらっしゃいませんでしたか?」
するとカウンターのお姉さんが、
「ご親戚の方ですか?」と答えてきました。
そこで、昨夜あった一部始終を話し、「お子さんを育てるために、働かなくちゃ…、っていう強い思いで、時々、このようにお掃除に回っているようですので、もう、働かなくてもお子さんは大丈夫と伝えてあげて下さい。」
とホテルの方に伝えました。同じような出来事が、過去にもあったらしく、その理由が分かってホテルの方たちもホッとしていました。怖いと言うより、悲しいお話でした。